東京高等裁判所 昭和30年(う)263号 判決
被告人 阿久津丈夫 外
〔抄 録〕
A弁護人の論旨第六点について。
論旨は要するに、原判決が判示第二の(一)において、被告人山内は被告人大橋に対し判示運動資金並びに報酬として他に供与せしめるため、金壱万円を交付したと認定して被告人山内を有罪としながら、被告人大橋に対しては、これに対応する事実について無罪の言渡をしたのは判決の理由にくいちがいがあるというに在る。
しかしながら判決の理由にくいちがいがあるというのは、当該被告人に対する判決の主文と理由又は理由相互間にくいちがいがある場合をいうのであつて、共同被告人に対する判決との関係をも含めた趣旨ではないと解すべきである。即ち刑事訴訟法は関連事件の併合又は弁論の併合に関する規定を設け、関連事件の裁判が区々になることを避けようと配慮しているけれども、民事訴訟法における必要的共同訴訟の如き規定は存しないから、共犯に係る事件でも公訴提起の手続の異るに伴い別個に審判せられ、従つて共犯人の裁判が異つた結果となることは避け難く、また共同被告人として同時に審判されても、被告人の個人的な事情が異るに従い、共犯人の裁判が異つた結果となることは通常起り得る問題である。このように訴訟手続が違い、または被告人の個人的な事情が異る結果、共犯人の裁判でもすべてが同じ結果となるとは限らないのであるから、判決の理由にくいちがいの有無の問題は専ら当該被告人に関する判決についてのみ考えるべきである。本件において原審が有罪とした被告人山内に対する原判示第二の(一)の事実に関しては主文と理由、または理由相互間に何等理由のくいちがいは存しないし、原審が無罪とした被告人大橋に対する公訴事実(被告人大橋は昭和二十八年四月三日頃被告人阿久津方において被告人山内より金一万円の供与を受けたとの事実)に関する説明においてもその主文と理由、または理由相互間にくいちがいは存しないから、論旨は理由がない。